日曜日

中国拳法その1

高校生の時だった。

ジャッキーチェーンが香港映画で活躍をしていた。
ほうきや棒など手に入るものすべてを武器に変えて襲いかかかる悪漢をばったばったとやっつけていくジャッキーチェーン。


俺はあこがれた。おれもジャッキーのように強くなりたい。そして強くなって女にもてたい。

酒に酔って相手を倒す酔拳。へびのように体をくねらせる蛇拳。猿のようにすばやい動きやバク転やジャンプはまさに漢の魅力だ!

小学6年の時にブルースリーの映画を見て感動した俺は、ジャッキーチェーンにもあこがれた。よくヌンチャクを作っては振り回して怒られたものだった。

ある日、友達にジャッキーチェーンの話をしたら盛り上がった。彼も映画を見ていたのだ。カンフーシューズやカンフー着が欲しいという話になった。

友逹は俺に2人でカンフーシューズを揃えようという話をした。俺は、カンフーシューズを2足買いに行くということになった。

かっこいいジャッキーチェーンの動画


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中国拳法その2

友達とカンフーシューズを揃える約束をした俺は貯金箱からお金をだして、街まで買い物に行った。

中国雑貨店に入って店員に聞いてみたもののそっけない答え。

どうも在庫がないようだ。俺は2人の靴の寸法を言って、入荷したら電話をもらえるように話した。色は黒を頼んだ。


1週間くらいで電話があった。俺は店に出かけて黒いカンフーシューズを買った。うれしかった。とても軽くて履きやすかったが、歩くのには向いていないようだ。靴底が薄すぎるのだ。

俺たちは、いつもの体育館の裏で練習することにした。
新しいカンフーシューズを履いて…。

「あちょー!」「たーっ!」「うおちゃーおー!」
俺たちは掛け声をだして練習をはじめた。

しかし、あることに2人は気がついた。
攻撃をするのは、映画を見て覚えたが受け技ができないのである。

突き技や蹴り技の真似はできても受けて反撃するということの真似ができないのであった。受けられないのでとても痛かった。

「おーいちゃー、いてててて!」体がきしむようであった。

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中国拳法その3

放課後俺たちは体育館の裏で鍛錬をした。

汗がでて筋肉が盛り上がり、血液は体内を力強く駆け巡り、アドレナリンは分泌しきっていた。

俺たちは中国拳法で十分強くなった。もう怖いものはなくなったのだ。

「あちゅーよーーう!」俺たちのおたけびは体育館の裏でこだましていた。


その時になぜかある光景が目に入った。
クラスで一番の美人の女の子が体育館の裏で一人で遊んでいたのだった。

俺はその時に友達にジャンケンに負けたら彼女に付き合ってくれということにしようぜ!と言った。俺は強くなったのでジャンケンにも負ける気がしなかった。

ジャンケンは俺が勝った。
友達は口をとがらせていたがしぶしぶ彼女に告りに行った。

漢と漢の約束は破ることが絶対に許されないのだ。

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中国拳法その4

体育館の裏での出来事。

俺の友達は、顔をまっかにして彼女に近づいて行った。



…しばらく遠くで俺は見ていた。あの美人があいつと交際するわけはないから余裕だった。

しばらくすると友達が走って帰ってきた。

彼女、いいよーと言ってくれたよ、と言っていた。顔はにこにこだった。

衝撃が走った。そんなに簡単に交際できるはずがないと思っていた。
俺は悔しかった。こんなことならジャンケンに勝たなければよかった。





友達は勝った。俺は負け犬になったのだ。

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中国拳法その5

次の日いつものように体育館の裏で友達を待っていたが、彼は来なかった。

しかたがないので一人でカンフーシューズを履き厳しい鍛錬をしていた。

「うおーーーちゃ!おちゃ!おちゃ!おちゃ!」

その時上から人の声がした。
「おまえなにやってんだ!」
見ると体育館の非常階段に担任が立って見下ろしていた。

「そんなに体を動かすのが好きならちょっと来い!俺が砲丸投げを教えてやる!」

担任は体の大きい男性で英語の担当だったが、陸上部の顧問もしていて砲丸投げで記録も持つ怖いゴツイ怖い先生だった。

「ありがとうございまーす、今日は帰りまーす。」俺はそう言うと足早に体育館から逃げ去ってきた。とんでもない話だ。
俺はジャッキーチェーンのように強くなりたいのに、マッスルマンになる気はなかったので家に帰ってきた。

それにしても友達はどうして約束をやぶって練習に来なかったのだろうか?不思議だった。

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中国拳法その6

友達との練習を袖にされ、最悪なことに鉄の玉まで渡されそうになった俺は自転車で一目散に家まで逃げ帰ってきた。

すると、家の玄関に友達の靴があった。家では、カンフー友達が麦茶を飲んでいた。しかし、どことなく元気がない。暗い雰囲気だ。

友達は切り出した。
「フラレタ」彼は涙ぐんでいた。

話を聞くと交際してもいいよ、と言ってくれた昨日の彼女にデートの段取りをしに話しにいったらしいが、軽くあしらわれたらしい。
「お母さんが駄目だって言ったから、ごめんね、さよなら。」と言われたらしい。

俺はまず最初にざまあみろ!と思ったが可愛そうになった。
考えてみると、クラスで一番の美人に告白しようと言い出したのは俺だったし、目の前の友達は深く傷ついていた。

彼はショックから立ち直れないようで、もうカンフーもやめたいと言ってきた。カンフーシューズも捨てようとしていたが俺はそっとしまっておいた。


しかし、彼はまだ気がついていなかったのであった。
彼にとって人生最高の至福の時が彼には近づいていたのである。

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中国拳法その7

友達は泣いていた。

しかし、彼には信じられないようなことがこれから起こるのである。


彼がフラレタ、という話は女子の間で瞬く間に広まったらしい。
噂話だけではすまなかった。
実は俺の友人は彼女さえいなかったがとても清潔でおしゃれだった。
いつも彼の髪はきちんと刈られて、くしで丁寧にとかれていた。

女子は友達に目をつけていたのだ。

彼がクラスで一番の美人にフラレテ落ち込んでいる時に女子たちはいっせいに彼に交際を申し込みはじめた。
彼が女子に興味があることを理解したのだ。

連日のように彼にはラブレターや告りがあった。
女子たちはまるで打ち合わせをしているかのごとく彼にアタックをはじめ難攻不落の城を攻略するかのごとくだった。

しかし、カンフーで強い漢になったはずの俺にはそんなことは一つもなかった。俺は深く深く後悔した。

あの時にジャンケンに負けていれば…俺はジャッキームフフーンだったのに。何故ジャンケンに勝ってしまったのだろうか?

こうして俺は、友達がほっぺたにいっぱいチュウをされている友人の姿を見ることになったのだ。

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中国拳法その8

彼のまわりはいつも女子の熱気でいっぱいになった。

彼は女子をいつも数名従えて教室から教室まで移動する毎日が続いた。彼はもはやカンフーをしなくなりカンフーシューズは主人を失った。


数日後に事態は変化をみせてきた。彼のまわりの女子たちは少しずつ減っていった。

そして、ある日彼はある一人の女子を連れて歩いていた。
どうも彼女が決まったようだった。


真実はこうだ。

連れている彼女はとても美人とは言えなかった。ニキビでいっぱいで髪は短かった。足も長くはなく、スタイルも誉めたものではなかった。

彼女は俺たちの1つ上の学年でスケ番のようだ。
眉は剃られていて女なのに短く刈られた髪にはソリコミが入っていた。迫力のある目つきは印象が悪くとても評判の悪い女だった。

一番強い女が友達の彼女に決まったようなのだ。


俺は恐怖をおぼえた。俺のカンフーは強力だしジャンプ力のあるしなやかなバネのようなボヂィーは最強だ。

しかし、漢たるもの女にカンフーを使うわけにはいかないのだ。下から見上げるような目つきには俺は全身が凍った。

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中国拳法その9

女にうつつを抜かして骨抜きにされたカンフー拳士の他にもう一人友達がいた。

実はいつも3人で遊んでいたのだが、もう一人は運動ができなかった。
少し太っていて動きは鈍かったがとてもいい奴だった。
さらに頭がよくて成績が優秀だった。


その友達が急に海に行かないかと誘ってきた。
俺はカンフーで疲れた体と心を癒したかったし、友達も仲間が女子にモテモテになっているのがとても耐えられなかったのだろう。

俺達は、自転車に乗っておでこ全開全足力で岩瀬浜海水浴場に向かった。

海だった。暑い夏の海だった。日本海は中国とつながっている。
ジャッキーチェーンもきっと海の向こうで日本海をながめたこともあっただろう。そして、きっとブルースリーも海で泳いだに違いない。


カンフーのバカ野郎!俺達は2人で叫んだ。

そして俺達はあるものをカバンから取り出そうとした。


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中国拳法その10

俺たちがカバンから取り出したもの、それはカンフーシューズ2足だった。

美しくよみがえる思ひ出。

友達と技をカケアッテ遊んだ時にいつも俺たちを守ってくれていたカンフーシューズ、とても軽くて飛び上がって塀の上に飛び乗った。
俺達の命だった。

俺は漢ながらに号泣しながら海にカンフーシューズを投げた。
勉強のできる友達もカンフーはしなかったが、もう1足のカンフーシューズを海に投げた。

カンフーシューズは一度海に浮かんだ。
そして、少しづつ沈みはじめた。



すると信じられないことが次に起こったのである。

次回へと続く

中国拳法最終回

カンフーシューズが沈みだしてしばらくすると後ろから女性の声が聞こえた。


「あなたたちのお話は聞かせていただいたわ。」

びっくりして俺たちが後ろを振り向くと、ビキニの若いおねえさんが立っていた。

おねえさんはスタイルが抜群で右のおっぱいがボインで、左のおっぱいもボインで、両方でボインボインだった。
おまたのあたりはモリンモリンで、俺たちはモッコリンだった。

太陽を背中に受けておねえさんは、迷うことなく海に走り出し飛びこんだ。

泳ぎだすと俺たちが投げたカンフーシューズのあたりで潜り、浮き上がったときには、4つのカンフーシューズ、つまり2足を両手に持って上がってきた。

海からあがってきたおねえさんは、
「お礼にはおよばないわ、宝物は大切にするのよ。」そう言って北島康介のように頭を振って耳から水をだした。


俺たちは本当にびっくりしたがお礼を言った。
しばらくおねえさんと話をした。そしておねえさんは海の家でカキ氷をおごってくれた。俺はイチゴ味を頼んだ。


パーフェクトな夏だった。青春の夏だ。2度とこんなパーフェクトな青春の夏は来ないだろう…・フォーエバー。

俺たちは、漢にはなりそびれた。

しかし、この夏俺達は大きく成長した。



そう俺達の中国拳法の夏だった。


劇終



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